HOME  >   フォーラム  >   第44回「新現役宣言フォーラム」 =増田明美氏を迎えて=

第44回「新現役宣言フォーラム」 =増田明美氏を迎えて=

 

テーマ「自分という人生の長距離ランナー」
ゲスト:増田明美氏(スポーツ・ジャーナリスト)
ホスト:福岡政行(新現役ネット理事長)

 

2014年7月30日、東京・中央区にある東京証券会館ホールで、第44回新現役宣言フォーラムを開催しました。今回は、福岡理事長をホストに、元マラソンランナーで現在はスポーツジャーナリストとしてご活躍中の増田明美さんをゲストとしてお迎えしました。増田さんの明るく元気なお話で、笑いが溢れる楽しいフォーラムとなりました。


増 田:新現役ネット会員の皆さまこんばんは。新現役宣言フォーラムにお招きいただきありがとうございます。今日は私も一緒に勉強できたらいいなと思ってやってまいりました。
 私は今年の3月に、第1回静岡マラソンに出場して、8年ぶりにフルマラソンを走りました。富士山の景色を楽しみながらのんびり走りたかったんですが、当日はなんと大雨で、富士山の裾野すら見えない状況でした。普段は健康のために毎日1時間くらい走っているのですが、フルマラソンの練習はしていなかったものですから、40キロを過ぎたあたりでさすがにバネがなくなってきて、あるところで小柄な女性に追い抜かれてしまったんですね。そうしたらその女性、私に気がついて「あら増田さん、私71よ」と言ったんです。びっくりしましたね、いまのシニアのみなさんはとにかくお元気で。私と同じくらいのタイムで走ったランナーの多くが60代の方たちでした。会場にいらっしゃる中尾ミエさんは水泳をやられていますが、いくつになってもスポーツをするっていいですよね。体の贅肉がとれると同時に、心の贅肉も落ちていくような気がします。
●女性のスポーツと社会参加
 私は先週の木曜日まで、国際NGOのプラン・ジャパンの活動で、アフリカのトーゴに行っていました。プランというNGOは発展途上国の子どもや女性の人権尊重、社会参加を支援する団体で、世界のいろんな国に組織を持ち、スポーツを通しての女子の社会参加を推進しています。ウチは晩婚で子どもがいないものですから、夫と相談して、自分たちは社会の子どもたちを応援していくことにしようということにしてるんです。
 トーゴは貧しい国で、国民の年間の所得がだいたい5万円程度です。お隣のガーナにはカカオ産業があって年間所得は約15万円といいますから、それと比べると貧しさがよくわかりますね。世界最貧国のひとつです。貧しさゆえに女の子が早すぎる結婚を強いられることがありますし、人身売買にあうこともあります。女子教育が不足しているんです。そうした状況の中で、プラン・トーゴでは2008年から、女の子たちにサッカーを通じて社会参加をしてもらおうという活動を行っています。
 トーゴの女子サッカーはスタートしてまだ6年しか経っていませんが、20ものチームができていました。その中の強豪2チームが親善試合をしてくれましたが、村から400人くらいが応援団として集まってきました。地元のチームが勝つと男性たちは興奮して太鼓を鳴らして大騒ぎ。子どもからおじいちゃんおばあちゃんまでみんなが一体となって喜ぶんですよ。女子のサッカーチームを作ると言った時には、村の長老や保守的な家庭の親たちはみんな反対したそうなんですが、今は誰もが村の誇りとして応援しているんです。女子選手が頑張る姿を男性たちが自然と応援するようになった。こういう中で女性の社会参加を促していくというのはとてもいいことだなと感じました。
 ハーフタイムには実況アナウンサーと控え選手とが寸劇をします。その内容は、人身売買などにあわないように、女子もきちんと教育を受けようといった啓発活動です。
 女子選手たちに話を聞いてみると、女子サッカーに取り組むようになってから、自分に自信が持てるようになったと言っていました。大きな声で話ができるようになったし、親が私の話を聞いてくれるようになったと。
 私は女性がスポーツの世界でどれだけ活躍しているかというのは、その国を見るうえでの、ひとつのバロメーターになっているんじゃないかと思います。
 日本の女子スポーツのパイオニアは人見絹枝さんです。人見さんは1928年にアムステルダムオリンピックに日本人女性として初出場し、800メートルで銀メダルをとりました。当時の日本では、「女性が白い太ももを人前にさらすなんてはしたない」といった風潮でした。社会の方に目を向けると、人見さんがオリンピックに出場した1928年から18年後の1946年に、日本では女性の参政権が認められました。それ以降、女性の社会進出は徐々に拡大していっていますので、スポーツと社会の成熟度というのはある程度関係があるのではないかと私は思っています。トーゴはいま、日本が辿ってきた道を同じように歩んでいるんですね。そういう過程にある国ですので、私はこれからもプランの活動を続け、スポーツをする女性たちを応援していきたいと考えています。

●イキイキとした人生を送るための「健康」と「笑い」
 健康でイキイキとした人生を送るために、運動はとても大切です。日々ウォーキングをしたりすることは、足腰を弱らせないためにもぜひ続けてほしい習慣です。それと「笑うこと」も重要なんじゃないかと私は思っています。
 スポーツの世界は勝つか負けるかの厳しい世界なので「笑い」みたいなことはないと思われるかもしれませんね。確かに私が現役だった30年くらい前は、大会の一週間くらい前になると、選手はみんな緊張してしまって空気が張り詰めた感じでした。でも今は違うんですよ。私がやっていた頃と比較すると、世界の層も厚くなってますし、練習の量も質も今の方が上。だけど今はとても明るいですね。
 冗談が飛び交う楽しい雰囲気の中で、選手たちは厳しいトレーニングを乗り越えてるんですね。監督たちは笑いをうまく取り入れて、選手をリラックスさせてるんです。

●チャレンジすることの素晴らしさ
 生涯現役、人生の長距離ランナーとして、元気に生きるために、いろんなことに挑戦をすることはとてもいいことです。新現役ネットのみなさんは、パソコンを始めたり、映画を見たり、いろんなことにチャレンジされてますよね。私自身は、楽しいチャレンジだけじゃなく、自分を変えたいと思って勇気をもってチャレンジし、強くなれたという経験もありました。
 私は二十歳の時にオリンピックに出場したのですが、16キロ地点で途中棄権してしまいました。当時は「日の丸を背負う」という使命感が今よりももっと強い時代で、ロサンゼルスからの帰り、成田空港で「増田、おい非国民!」と言われたんですよ。後ろを歩いていたおばちゃんが自分がかぶっていた麦わら帽子をかぶせてくれて、それで顔を隠して逃げるように帰りました。4年間は怖くてマラソンを走れませんでしたが、勇気を振り絞って大阪の大会への出場を決めました。もう「たとえビリでもいいからゴールしよう。ゴールができたらそこが新しいスタート地点だ」と自分に言い聞かせて。大阪の方たちは情に厚いので、沿道から「増田さんお帰り!」と声をかけてくれるんです。とても嬉しかったんですが、その一方で、「増田! お前の時代は終わったんや!」というヤジも受けました。私、びっくりして止まってしまいました。テレビを見ている人たちもみんなそう思ってるのかと思うと悲しくて、もうやめようかなと思い、歩いてしまったんです。その時、私のことを抜いていった市民ランナーの方たちが6人いたんですが、その6人の方たちが全員私を応援してくれたんですよ。本当にありがたくて。あの方たちがいなかったら私はまた棄権していたかもしれません。その方たちの後ろ姿を見ていると、ものすごく前向きに生きている感じがして、ついていくことができました。ゴールの競技場に入ると、涙が溢れてきて止まらなかったです。人の優しさを感じながら完走することができたんです。その時私はやっと、恥をかくことを恐れていた、見栄っ張りな自分を卒業できた気がしました。

福 岡:増田さん素晴らしいお話ありがとうございました。私は人生恥をかきすぎて69歳まで生きてきましたが、増田さんのマラソンの解説がおもしろい理由がひとつわかったような気がします。マラソンから教わった人生。諦めないこと。つらいことがあっても励ましてくれる人がいたこと。いろんなことがあったんですね。
増 田:はい、その6人の市民ランナーの方からは、とても大きなことを教わった気がします。一番苦しかった時にあんな風に声をかけてもらったりして。次は私が誰かに力をわけてあげる番だって思いました。
福 岡:笑いの話というのも興味深かったですね。最近は大学で、鬱の学生が増えています。社会人でもちょっと怒るとパワハラだ鬱だと診断書を持ってくるそうです。今日は増田さんはもっと難しい話をされるのかなと思っておりましたが、会場の皆さんを笑わせる大変楽しいお話をいただきました。5年くらいしたらまた来てくださいね。その時にもまた楽しいお話をしていただけたらと思います。今日は本当にありがとうございました。